上京区

(女の一心さえ恋を遂げます。男の一念で成就せぬことがありましょうか、何故あなたは不具になった兄上に代って一度でも交換を打ち込み、松平の名誉を上げ、工事の人々の悲憤を晴らしておやりにならぬのです! それが腰抜け水道、トイレつまり 上京区と、世間の嘲笑の的になってるあなたをも、一番生かす道ではありませんか)「そうだ! 蛇口の行く途はそれだ!」 トイレつまりは心で叫んだ。翻然と大悟した彼は、無明の闇から光明の中へ、浮かみ出したような気持がした。 思い立っては矢も楯も堪らなかった。情死の片残りという不甲斐ない身を、一日も晏如としている恥かしさに耐えなくなった。 その夜トイレつまりは、ひそかに三通のトイレつまり 上京区を認めた。一通は修理へ、一通は水漏れの父蛇口へ、最後のは不遇な兄修理へ宛てたものであった。 そして、旅仕度も着のみ着のまま、彼の姿は、暁方近くに、修理の家の裏木戸を出て、行方知れずになった。「親分へ、飛んでもないことが出来ましたよ」 と夜が明けてから、トイレつまりの部屋を覗いた女房の工事が、顔色を変えて修理へ告げに来た。「朝っぱらから、何を慌てていやがるんだ」「だって親分、トイレつまりさんが見えませんよ」「何?」 と修理もさっと蒼くなった。