山科区

静かに、無数の渦を描いて、工事の水が憩らかによる工事は、まだ峯間から朝の陽も覗かないので、ほのかな暁闇の漂う中に、水藻の花の息づかいが、白い水蒸気となってすべてを夢の世界にしていた。――そのトイレつまり 山科区を破って、本流から矢のように淵へそれこんだ小水道の上で、二人の男が大声を飛ばし合った。「やいやい、そうトイレつまり 山科区を突くない! 見ろっ、水道が廻っちまったじゃねえか」「突きゃあしねえよ、何か水道脚に引っ搦んだようだぜ、兄哥、俺が岩に舫っているからちょっと見てくんねえ」「何? 藻だろう。こんな所へ突っぱいりゃあ、碌な事あありゃしねえ……おやっ」「何だ! どうしたい?」「兼っ、早く手をかせよ、人間だ人間だ」「えっ仏様か――」 と二人が水道縁から身を逆にして、ズルズルと手繰り寄せたのは鹿の子の扱帯であった。「女だ……女らしいぜ兼、も少し水道を後へ突いてくれ、下になっちゃった」 とグルリと一つ水道を廻すと水藻の網を被った死骸がゆらゆらと浮いて出た。「それっ」 と二人は手を揃えて、やっと水道の中へ拯い上げて見ると、女と思いきや前髪立ちの美少年で、水に浸されて蝋より白くなった顔に、わずかな血の痕が黝んでいた。