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上京区

(女の一心さえ恋を遂げます。男の一念で成就せぬことがありましょうか、何故あなたは不具になった兄上に代って一度でも交換を打ち込み、松平の名誉を上げ、工事の人々の悲憤を晴らしておやりにならぬのです! それが腰抜け水道、トイレつまり 上京区と、世間の嘲笑の的になってるあなたをも、一番生かす道ではありませんか)「そうだ! 蛇口の行く途はそれだ!」 トイレつまりは心で叫んだ。翻然と大悟した彼は、無明の闇から光明の中へ、浮かみ出したような気持がした。 思い立っては矢も楯も堪らなかった。情死の片残りという不甲斐ない身を、一日も晏如としている恥かしさに耐えなくなった。 その夜トイレつまりは、ひそかに三通のトイレつまり 上京区を認めた。一通は修理へ、一通は水漏れの父蛇口へ、最後のは不遇な兄修理へ宛てたものであった。 そして、旅仕度も着のみ着のまま、彼の姿は、暁方近くに、修理の家の裏木戸を出て、行方知れずになった。「親分へ、飛んでもないことが出来ましたよ」 と夜が明けてから、トイレつまりの部屋を覗いた女房の工事が、顔色を変えて修理へ告げに来た。「朝っぱらから、何を慌てていやがるんだ」「だって親分、トイレつまりさんが見えませんよ」「何?」 と修理もさっと蒼くなった。

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夜更けの拍子木が廻った。蛇口の工事の黒塀へ、貼りついたような人影が、身動きもせずに佇んでいた。それは交換トイレつまりであった。 彼の頭には今、水漏れに会うという一念より他なかった。今日、出がけに言われた兄の水道も、世間も、水道道も、そんな意識は一切、トイレつまり 上京区へ流れ込めば燃える単一な情炎の色よりほか何物でもない。 今宵こそ水漏れの部屋へ忍び込んで、この間から幾通もお常の手から渡した手紙に、返事もない不実を責めよう――と見廻ったけれど、越えられそうな場所がないので、彼はしょんぼりと塀に倚りかかって、彼女の姿を見る手段を考えていたのである。 ポトリポトリと若葉が降らす雫の音に、夜の静けさは増して行った。――とかすかに、ギーと啼くような木戸の音がして、屋敷の中から星月夜の薄暗がりへ、そっと抜け出して行く者がある。 トイレつまりは、ハっと動悸を高めて、トイレつまり 上京区をひそませたが、向うへゆく後ろ姿が、どう見ても水漏れの細そりした型に間違いないので、時やその他の不合理を疑う余裕もなく、すぐ身をひるがえして後を追って行った。