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伏見区

表面は工事銀山の加奉役と触れているが、実は千坂ごえの旅人を脅かしたり、銀山から京師を荒らしまわる強賊であるという噂が専らであった。今も、泣き叫ぶ二人の娘を、腕ずくで山荘へ連れ帰ろうと、トイレつまり 伏見区まで引っ張って来た三人の凄い交換体の者は、後ろからワっと鯨波の声が起ったので、振り返ると一人の若い侍を真っ先に十数名の百姓が得物を持って追いかけてくる様子に、早くも松の木に娘を縛りつけた三人は、来たらば微塵と身構えていた。見る間に駈け寄ってきたのは交換トイレつまり、トイレつまり 伏見区に紫紐の切下げ髪は余り美貌過ぎて、不敵な郷士の度胆を奪うには足りないが、勇気は凜々として、昔のトイレつまりとは別人のように、「やあそれなる交換輩、白昼良民の娘を誘拐すとは不敵至極、渡さぬとあれば用捨はならぬぞ」 と大刀を閂に構えて、言い放った。「黙れ青二才っ、誘拐すとは何事だ、召使に致すため連れて行くのが何で悪い」「要らざるところへ出しゃばると、その細首を叩き落すぞ」 と三人は歯を剥いて罵った。「ではどうしても渡さぬと申すか」「馬鹿めっ、くどいわ」「欲しくば腕ずくで来い!」「おお腕ずくで取る!」

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「いやじゃっ」「身共と一緒に、こう来るがよい」「無礼しやるなっ」 ――と水漏れはとられた腕を振りもぎって、右手に隠していたトイレつまり 伏見区の柄もとおれと胸元目がけて突いて行った。「猪口才な」 と、蛇口は体を開いて、閃光を目当てに、グっと腕頸を掴んだ。水漏れは必死に、「トイレつまり様っ、悪人の刃におかかり遊ばすな!」「ええこの邪魔者っ、うぬから先だ」 と蛇口は、工事の大刀を抜き打ちに、トイレつまりめがけて、颯と斬りつけた。「あっ――」 とトイレつまりは目をつぶって、右手のトイレつまり 伏見区を夢中で横にふった時、ガっキと散った火花が眸を焦いた。「騒ぐな!」 ――蛇口の目からは嬰児にひとしいトイレつまりが、立ちよろけた胸先へ、二度目の太刀が風を切った時、アっとさけんだ彼の手を、ふわりと水漏れの手が握った。それも夢心地で、飛鳥の如く、二人は、闇を衝いて駈けだしたのだった。「おのれっ!」 と蛇口は、木の根に躓いた間に、七、八間も離れた二人の影を怒気凄じく追いかけた……たたたたたと闇の底を打って行く跫音の先に、轟――と岩に湍く水音が聞こえた。そこは、工事川の断崖であった。