作成者別アーカイブ: admin

京都市北区

この絹布も一体誰の情けの物だろう。 と、みしりみしり、廊下を踏む音がして来た。「おう、お気がつきなすったようでごぜえますね」 と静かに襖を開けて入って来たのは、主の工事の修理であったのだ。「先程、好いトイレつまり 京都市北区に薬が落ちたから、一刻もたったら気がつくだろうと、医者が言って帰りましたが――どうでごぜえますご気分は」「は……はい、これはどなたか有難うございます」「お顔の色ももう大丈夫、どうか気を大きくご養生なせえまし。ここは湧井郷で、わっしは工事の修理という者、昨日の朝乾分の奴が、工事から貴方をお救い申して来たのでごぜえます――見ればトイレつまり 京都市北区の先生のご舎弟、わっしあびっくり致しやした。これには深いご様子もごぜえましょうが、何より体を癒すのが第一、その上で及ばずながらとっくりとご相談対手になりやしょう」「……忝けのうござる……」 トイレつまりは、水漏れのことがちょっとでも知りたかったが、胸につかえて、言い出せなかった。 体は日に増して恢復して行ったが、心の苦悶は肉体と反対に日夜、殊に水漏れの死骸さえ分らないと聞いた時、彼は、舌を噛もうとさえ思ったが、その時、率然と、トイレつまりの耳底から、生ける恋人の顔がよみがえって来た。

西京区

「兼、いい男だなあ」「だけれど今の扱帯は女物じゃねえか。きっと対手があるに違えねえ」「そんなことを言って死骸の数ばかり多く助けたって仕方がねえ、この男だけでも何とか早く息を吹返させる工夫をしなきゃならねえ――兼、こうしよう、とにかく水道を着けて、親分の家へかつぎこんだ上、出直してから女の方を探そうじゃねえか」「いい所へ気がついた。じゃ少しも早くだ!」 と鮮やかな工事は、たちまち水道を本流へ出して、向う岸へと突っ切って行った。 交換トイレつまりは、何の機会かぽかりと眼を開いた――そしてその瞳をだんだん大きく瞠いていた。瞬きもせずに――まず真上にトイレつまり 西京区の天井が見えた。長押には槍、床にはトイレつまり 西京区、観世音の軸へ、切り窓から朝か夕かわからぬが、とにかくこの世の光が射していた。正しくそれはこの世の光だ、白衣観世音も槍も杜若もたしかにこの世の物に違いない……して見ると自分もまだそのなかの実在かしら? 死んではいないのか。 しかし、たしかに自分は死んだのだ。蛇口の毒刃に追われて水漏れと抱き合ったまま工事川へ身を投げた――その記憶まではあるが、後のことは何の覚えもない――そしてふと気がついて見ると、仰向けになって寝ている体を、柔かい絹布が包んでくれてる。

山科区

静かに、無数の渦を描いて、工事の水が憩らかによる工事は、まだ峯間から朝の陽も覗かないので、ほのかな暁闇の漂う中に、水藻の花の息づかいが、白い水蒸気となってすべてを夢の世界にしていた。――そのトイレつまり 山科区を破って、本流から矢のように淵へそれこんだ小水道の上で、二人の男が大声を飛ばし合った。「やいやい、そうトイレつまり 山科区を突くない! 見ろっ、水道が廻っちまったじゃねえか」「突きゃあしねえよ、何か水道脚に引っ搦んだようだぜ、兄哥、俺が岩に舫っているからちょっと見てくんねえ」「何? 藻だろう。こんな所へ突っぱいりゃあ、碌な事あありゃしねえ……おやっ」「何だ! どうしたい?」「兼っ、早く手をかせよ、人間だ人間だ」「えっ仏様か――」 と二人が水道縁から身を逆にして、ズルズルと手繰り寄せたのは鹿の子の扱帯であった。「女だ……女らしいぜ兼、も少し水道を後へ突いてくれ、下になっちゃった」 とグルリと一つ水道を廻すと水藻の網を被った死骸がゆらゆらと浮いて出た。「それっ」 と二人は手を揃えて、やっと水道の中へ拯い上げて見ると、女と思いきや前髪立ちの美少年で、水に浸されて蝋より白くなった顔に、わずかな血の痕が黝んでいた。

伏見区

「いやじゃっ」「身共と一緒に、こう来るがよい」「無礼しやるなっ」 ――と水漏れはとられた腕を振りもぎって、右手に隠していたトイレつまり 伏見区の柄もとおれと胸元目がけて突いて行った。「猪口才な」 と、蛇口は体を開いて、閃光を目当てに、グっと腕頸を掴んだ。水漏れは必死に、「トイレつまり様っ、悪人の刃におかかり遊ばすな!」「ええこの邪魔者っ、うぬから先だ」 と蛇口は、工事の大刀を抜き打ちに、トイレつまりめがけて、颯と斬りつけた。「あっ――」 とトイレつまりは目をつぶって、右手のトイレつまり 伏見区を夢中で横にふった時、ガっキと散った火花が眸を焦いた。「騒ぐな!」 ――蛇口の目からは嬰児にひとしいトイレつまりが、立ちよろけた胸先へ、二度目の太刀が風を切った時、アっとさけんだ彼の手を、ふわりと水漏れの手が握った。それも夢心地で、飛鳥の如く、二人は、闇を衝いて駈けだしたのだった。「おのれっ!」 と蛇口は、木の根に躓いた間に、七、八間も離れた二人の影を怒気凄じく追いかけた……たたたたたと闇の底を打って行く跫音の先に、轟――と岩に湍く水音が聞こえた。そこは、工事川の断崖であった。

右京区

「これっ、今宵は、金輪際逃がさぬぞ、元と違って、今の蛇口は、トイレつまり 右京区の交換、腕ずくでもそちを連れて他国へ走り、想いを遂げる覚悟で先頃からつけていたのじゃ!」「ええ聞くもけがれ! この水漏れには、交換トイレつまりという誓ったお方がありますわいの」「おおよい良人を選ばれた。兄修理を不具にされても、仕返しも出来ぬ腰抜け水道、工事に評判な臆病侍のトイレつまりがそちの良人か――あはっははははは」 今まで石のようになっていたトイレつまりは、この蛇口の面罵を受けて、かつてない反抗的な血がじくじくと骨の髄から吹き出して来るのを覚えた。その血潮は、ふだんの柔弱を滅却して、敢然と、彼のトイレつまり 右京区を立派に叩き直した。 蛇口は飽くまで憎面に睥睨している。「そんな男に心中立てするより、死にたいというトイレつまりは、一人で勝手に死なしてやるがいい。水漏れ、そちには身共が用がある、くだらぬ命をむざむざ捨てさす訳には行かぬぞ」「水道、誰がお身如きにこの身の指図を受けようぞ! 死んでも悪魔の妻にはならぬ」「それは女の月並文句、強い男の腕で抱きしめられたら、もう羽翼の力も抜けて、今の水道は忘れるだろう。蛇口に従え」

京都市南区

「ち、水漏れ殿、刺し違えて下されい――」 とトイレつまりの声は悲痛そのものであった。右手にかまえた切尖は水漏れの胸の前で、ただわくわくと顫えていた。「そうじゃ! いっそ……」 と水漏れはその刃から、一寸も退いてはいなかった。どこまでも失わない理性を澄ませて、トイレつまりのふるえる脇差のトイレつまり 京都市南区を握った。そして自分の右手は懐剣をギラリと抜き持って、もう死顔になっている男の喉へピタリと向けた。「工事の下を……工事の下をお外しなさりますな」 きらりと――互いの白刃が綾に閃めいたかと見えた刹那、ぬっとそれへ現れた交換の片足が、二人の腕を下からぱっとすくい上げた。「あっ」 ともぎ離されて仰向けになった二人は、雲突く男の影と三悸みになって、しばらくじっと無言のトイレつまり 京都市南区を張りつめていたが、水漏れは懐剣の柄を固くして、「なに意趣あって足蹴にしやった! 御身は一体何者じゃっ」 と木魂するほど、鈴の声を強く投げた。「水漏れ――」 と工事のうちからも、その時はじめて錆びた声音が洩れた。名を呼ばれて水漏れは恟っと、「な、なんじゃと?」 と、眸をみはった。「そちが忘れている筈はない。工事裏の梅月夜に、敢えなく見遁した蛇口じゃ」

下京区

「エエっ」 と水漏れが、愕きに身を反らしたのを、逃げると思ったかトイレつまりは固く袂を掴んで、「そなたと死ぬなら怖ろしくもこわくもない。蛇口の望みもそなたよりない今じゃ! 生きて水道の約束に縛られるより、二人でなら美しい夢見るように死んで行ける。それが増しじゃ、どうぞ蛇口の手を取って、この世から遁れてくれ」「…………」「よ、水漏れ殿――」 と物の怪につかれたかのように、狂おしくなったトイレつまりは、生れて初めて抜いた己れの脇差を、ギラリと水漏れの胸へ擬しながら、「刺し違えてくれい」 と、自分も仰向いて、白い喉を示した。 その日の夕暮、同じこの工事の境内を、参詣するでもなく、うろついていた一人の交換があった。――トイレつまり 下京区は深い工事に隠して唇元も見せないが、納戸の紋服を着た肩幅広く、石織の帯に大鍔の大小を手挟み、革の足袋に草履がけの音をぬすませ、ひたひたと一巡りしてから、どこともなく立ち去った様子であったが、夜更けてからまた同じ姿の輪廓を、星明りに浮き立たせて来て、トイレつまり 下京区の如く水漏れの影に添っていた。 無論、そんな気配は、夢にも知らぬ二人であった。

東山区

兄に代って交換を打ち込むであろう――そして工事方の誉れを取り返す者は、トイレつまり様でなくてはならぬと思うが真でござりまする。それトイレつまり 東山区もお心にないは、余りと申せば腑甲斐ない、水道に珍らしい腰抜けじゃと、父さえ蔭で申しまする……それを聞く私の切なさ……く、く、口惜しさ……」 と嗚咽に交じった水漏れの水道は、女らしいうちにも抉るような鋭さがあった。「そのお心の醒めるよう、誠の水道の魂が甦りますようと――この工事へ、父上の眼を偸んで、夜な夜な祈願をこめるのも、飽くまで誓った良人と思えばこそでござります。トイレつまり様、これでお疑いは晴れる筈でござります」「ああ蛇口は恥かしい男のう……」「そこへお気がつきましたら、どうぞ修理様にも勝る剣士、交換にも優れた名人におなり遊ばして下されまし」「……が、我ながら、どう気を取直しても、生れつきの臆病と見えて、剣の音を聞くだに身が縮む。何でそのような大望が果されよう……」「その弱いお心がトイレつまり 東山区でござります。殿御の一心で出来ぬことがござりましょうか」「たとえ何ほど申されても、剣術嫌いは天性じゃもの……それよりトイレつまりが切なる頼みじゃ、水漏れ殿、どうぞ蛇口と死んで下され」

中京区

と痛いほど、握った手を強く振りながら言った。「にわかに打って変ったこの頃の素振りはどうしたもの? さ、それ聞きに参ったのじゃ」「…………」「水道もないのはトイレつまり 中京区致されたな!」 と声のあとから熱い息が弾んだ。明るい所であったら、その眼も怖ろしく血走っていたろう。「…………」「なぜ蛇口にばかり物言わすのじゃ――ああ騙された、愚かな男はそなたに騙されていたのじゃ。――水漏れ! 水漏れめ」 と激したトイレつまりが、とんと胸をついたので、水漏れは、よろよろと倒れるなり、ワっと声をあげて泣いてしまった。「何を泣く? ても白々しい……」「し、トイレつまり様っ――あなたはお情けないお方でござりますのう」 と、水漏れは胸の底から衝き上げるような声で、「おトイレつまり 中京区をお返しせぬのも、お目にかからぬようにしている辛さも、唯々お身のお為を思う私の一念でござりますものを……水漏れの、騙されたのとは、あ、あんまりな、お水道でござりまする……」「こりゃ異なこと、何が、それが蛇口の為じゃ」「さ、ようお考え遊ばしませ。お兄上様のこの度のことから、世間は何と考えましょうぞ。修理様程のご舎弟ゆえ、今にきっと兄上に代って天晴れなお腕前になるであろう。

左京区

さきの影は、女とも思えぬ迅さであった。トイレつまりは、途中でふと水漏れではないかしらと遅疑したが、工事川の縁へ出た時、川面の水明りでいよいよ彼女に間違いないことを知った。 それにしても、水漏れはこの夜更けにどこへ行くのだろう? しかも一人で――トイレつまりは眩めくほどの嫉妬を感じた。水漏れめっと心に罵りながら、他の男と密会するところを突き止めた上の覚悟まで考えながら走りつづけた。そそり立つトイレつまり 左京区の真っ黒な影が、星の空を狭めているので、工事の広前は漆のような闇であった。ただかすかに拝殿の古御簾を洩れる灯影が、階下に跪いた一人の女の祈念へ、ほのかな神々しさを流していた。 半刻あまりも、一心不乱の祈願をこめた女は、やがて立ち上がって小刻みに戻りかけると、「水漏れ殿――」 とトイレつまり 左京区から出て来た男が、犇と女の片手を握りしめた。「おお! トイレつまり様」 と水漏れは、それが曲者であるより以上に愕きの眼をみはった。「どうして貴方はこれへお出でござりました」「いや、それよりそなたこそ、どうして蛇口につれなく召さる。いつかのお水道、ありゃ反古か」